Japan, Korea, Mongol

日本・コリア・モンゴルのピアノ曲

<日本 Japan>

 国民に親しまれている、もっとも有名なピアノ曲はNHKのラジオ体操の音楽でしょう。たくさんの作品が作曲されているわりには、これぞわが国のピアノ曲として誰もが知っている作品がほかにあるでしょうか。
  日本人の自国の文化に対する無関心を改め、作曲家と聴衆の生きた関係を築くために、今後、演奏会と共にピアノ教育においても自国のすぐれた作品を積極的に取り上げてゆく必要があると思います。
  CD「小川典子、滝廉太郎から坂本龍一までを弾く―日本のピアノ曲80年の歩み―」(キング KKCC2240)はとても意義のあるものです。ここに収録されている箕作秋吉(みつくりしゅうきち 1845―1971)作《花に因んだ3つのピアノ曲 ①夜の狂想曲②さくら さくら③春のやよい(今様)》はこれぞ日本のピアノ曲と言える作品でした。箕作秋吉は日本的5音階に拠る旋律を、彼の考案した5度を基本とする「日本的和声」で修辞する音楽を作りました。同じCDの中の小山清茂(1914ー2009)作《かごめ変奏曲》も、素朴な美しさが光っています。

 津軽じょんがら節をもとにした安達元彦作《JONKARA》(1989)という12分ほどの作品があります。民衆のエネルギーがはじける作品ですが、これを収録したCDは今は入手不可能で、楽譜は出版されておらず、コピーを持っています。  《津軽じょんから節より》 ←《JONKARA》をコンパクトにしたもの。

 私自身、日本のピアノ曲をあまり知らないので僭越ですが、自分の国の作品を愛せなくて、どうして外国の作品を愛することが出来るでしょう。ただし、庶民にはいっこうに理解出来ない作品が多いのも事実です。まず わかりやすく親しみやすい作品をヒットさせ、それを突破口にして日本のピアノ曲を広めてゆくという方向性が出せないものでしょうか。

    幻想曲さくらさくら Sakura Fantasia - Bing video  ←平井康三郎(1910ー2002)の作品。多くの動画あり。

  《ピアノ組曲》 ←伊福部昭(1914ー2006)。日本の民族音楽に基づいた作品。

  「小倉朗、ピアノのためのソナチネ」の検索結果 - Yahoo!検索(動画) 

   ↖ 小倉朗(1916ー1990)の1937年の作品。この時代がどういう時代かを考えると、この作品が時局の 

     影響を全く感じさせないところが革新的なゆえんかなと思っています。

  《ピアノのためのトッカータ<工事現場>》

   ↖ 奥村一(1925~1994)作曲。労働の現場を描く、こんな作品がもっとあって良いと思います。

  しあわせ運べるように(ピアノ)~臼井 真 作曲~ - Bing video 

     臼井真(1960ー   )原曲。1995年の阪神淡路大震災から生まれた名作。ピアノバージョンがいく

     つかあります。

 

  沖縄の音楽をピアノ曲にしたものには、清瀬保二(1900―1981)の 《琉球舞踏 123》、林光(1931ー2012)の《島こども歌1、2、3》、金井喜久子の作品などがあります。

  林 光:島こども歌2 第3曲「てぃーちでぃーる・じんじん」 pf. 東 秋幸:Higashi, Akiyuki - Bing video

   伊藤康英《琉球幻想曲》 ←連弾。2台のピアノのバージョンもあります。

 金井喜久子(1911~1986)は宮古島出身で、生涯、琉球音階を用いた作品を作りましたが、同時に12音技法も用いています。

   《月夜の乙女》(p:石本裕子)、《琉球舞踏曲「月の乙女たち」》(p:小川典子)←2つは同じ曲です。

 2006年6月、この人のピアノ曲を集めたCDが出ました(琉球カチャーシー~金井喜久子ピアノ曲全集、p:高良仁美、King Records kkcc 3011)。高良仁美さんはさらに《沖縄・夏の風景》を作曲・演奏し、CDを出しておられます。 《琉球カチャーシー》(p:高良仁美) 

 さらに私が沖縄県に出張した際、県立博物館の売店で見つけたのがCD「百名香代子ピアノ曲集2 月の美(かい)しや 沖縄のわらべ歌、ピアノ:百名香代子、フォンテック社 MAC-0015)です。わらべ歌をピアノに編曲したのは杉本信夫、玉城篤、瑞慶覧尚子の各氏、百名(ひゃくな)香代子さんは沖縄の音楽の演奏・録音に努められており、これ以外にも「てぃんさぐぬ花~百名香代子のピアノ島歌~」のCDを出しておられます。ただユーチューブには出しておられません。 

 

 アイヌ民族の音楽をピアノ曲にしたものには、小平時之助(1918ー2008)《アイヌ古謡による五つのピアノの断片》(楽譜は日本楽友協会が出版、1988年)、木村雅信(1941ー2021)《アイヌの素材による舞曲集》(No.14「雪の神のYukar」の楽譜は全音ピアノピースにあり。二台のピアノにょるNo.8「釧路地方のRimse、No.9「石狩川流域のRimse、No.11「熊送りー静内のRimse」とピアノ・ソロによる上記No.14の楽譜は札幌大谷短期大学紀要No.13、1981に収録がありますが、録音されたものについてはわかりません。アイヌの人自身が作った作品の出現も期待されます。

 

 「最新ピアノ講座-1 ピアノとピアノ音楽」(音楽之友社、1981)にそれまでの日本のピアノ曲の総目録が収録されています。

<コリア Korea> 

 私は、朝鮮半島にある二つの国は言葉の本当の意味での一国二制度によって、統一されるべきだと考えています。

 日本でも公開された朝鮮民主主義人民共和国の映画「人民教員」(1964年。ヒロイン役が金正日氏の妻で殺害された金正男氏の母親)の中にピアノでコリアン・メロディーを弾く教師が出ていました。そ日本による占領期(1910~1945)の話だったので、その頃からピアノ曲が作られ始めた可能性が考えられます。

●  大韓民国 South Korea

 韓国のピアノ曲は、高名な尹伊桑(ユン・イサン 1917~1995)のものも含めて、私の知る限り、おおむね前衛的できわめて難解です。1985年、私は韓国のピアノ曲だけのコンサートに出かけ、2時間聴いていて一つもわからなかったという体験をしています。

 現在、入手できるCDは「韓国のピアノ作品集」(p:クララ・ミン、ナクソス  8.572406)ですが、やはり大衆にはわかりにくい作品が多く、民族的な旋律に彩られた親しみやすい作品が出て来てほしいです。

 金正吉  Chung Gil Kim(1934ー2012)の作品《古風 123

       ↖ 1はわかりにくいのですが、2と3は親しみやすいです。下に紹介した楽譜で題名が「古風」と掲載、各曲の名はハング 

   ルなので読めません。クララ・ミンのCDでは《Memory of Childhood  1 Hyang-hap、2 Namakshin、3 Okbinyo》と掲 

   載されています。

 尹伊桑  Isang Yun(1917ー1995)の作品《5つの小品》    

    Young Jo Lee(1943ー    )のCD「韓国のピアノ音楽」から《Five Korean Legends》の《Children Playing》

 楽譜は、ソウルの大韓音楽社(ソウル中区明洞2街2 ℡ 776-0577,5665)に行った時に「Contemporary Korean Piano-waorks」を購入し、弾いて調べてみましたが、その世界に入っていけませんでした。

 ポピュラー音楽では《冬のソナタ》など皆さんご存じの曲がたくさんあります。

                    ・参考文献 石田一志著「モダニズム変奏曲」(朔北社、2005年)

●  朝鮮民主主義人民共和国 Democratic People’s Republic of Korea

 (「北朝鮮」という呼称はこの国の人々が良く思っていないようなので、これ以降「朝鮮」と表記します。)

   私が朝鮮の作品に初めて触れたのは、1980年頃に朝鮮レコード社で出したカセットテープでした。

  ピアノ演奏の部分のタイトルと作曲家は以下の通りです。

   現代朝鮮音楽選Ⅰ ピアノ・弦楽編  KRC-010 ピアノ:高橋悠治

    1.舞曲         ウン・チャンス(ンは小文字)

    2.セヤセヤ変奏曲    不明

    3.春          ウン・チャンスㇰ(ンは小文字)  

    4.歓喜の歌       チョ・ギルスㇰ

   これらはみなわかりやすい作品で、私はこれをきっかけにこの国の作品を聴き始めましたが、全般的に民

  族音楽的で親しみやすく、内省的な作品も多いです。

   4.《歓喜の歌》に関しては在日朝鮮人の梁成花(リャン・ソンファ)さんの演奏があります。

               チョ・ギルソク: よろこびのうた Pf.リャン・ソンファ(梁成花):RyangSongfa - Bing video

     《幻想曲》《歓喜の歌》の原曲(楽譜つき)。《歓喜の歌》はもともと《幻想曲》として発表されました。ここ   

           に字幕がついていて、改名と中身の一部改編、また1966年から67年にかけてこの国の音楽政策が大き 

           く変わったことが説明されています。         

   朝鮮に親しみやすい作品が多いということは、この国と日本との心理的な距離の大きさからすると特記さ 

  れるべきことでしょう。賛美するにしろ批判するにしろ、一方に偏った情報とは全く違う、この国のもう一 

  つの面を知って頂きたいと思います。

   在日朝鮮人ピアニストの盧裕喜(ロ・ユフィ)さんが祖国の作品の紹介に情熱を傾けておられましたが

  1992年、不幸にも31歳の若さで病死してしまいました。彼女の演奏を収めたカセットテープを私が取り扱

  っています。残り2本のみ。希望者は代金・送料をあわせて千円でさしあげるので私まで連絡して下さい。

  盧裕喜さんについての記事はこちら(2000.6.19 朝日新聞島根版)。彼女の演奏をお聴きください。

                    朝鮮のピアノ曲「アリラン」 - YouTube

       朝鮮のピアノ曲「陽の光」 - YouTube

       朝鮮のピアノ曲「小川の流れ」 - YouTube

     朝鮮のピアノ曲「ひばり」 - YouTube

                      朝鮮のピアノ曲「太鼓の舞」 - YouTube

       朝鮮のピアノ曲「雪が降る」 - YouTube

       朝鮮のピアノ曲「南山の青い松」 - YouTube 

       朝鮮のピアノ曲「竜岡打鈴(リョンガンタリョン)」 - YouTube                    

                      朝鮮のピアノ曲「わが故郷のなつかしい家」 - YouTube

              リ・ミョンサン作曲、リム・グンジェ編曲:朝鮮戦争の最中、前線で戦う兵士たちがなつかしい   

      故郷を思う思いをあらわした作品だそうですが、そのような背景を知らなくても痛切な思いに圧倒 

      されす。そこには歴史の中で翻弄されてきた朝鮮民族の叫びが聞こえてくるようです。楽譜

      「現代鮮ピアノ集」(在日本朝鮮文学芸術家同盟大阪支部 1987)などに収録。

       梁成花さんの演奏「故郷のわが家」 ←同じ作品です。

       朝鮮のピアノ曲「トラジ」 - YouTube

       朝鮮のピアノ曲「朝鮮は一つ」 - YouTube

       朝鮮のピアノ曲「トンドルラリ」 - YouTube  

                      朝鮮のピアノ曲「練習曲7」 - YouTube

       朝鮮のピアノ曲「舞曲」 - YouTube 

       朝鮮のピアノ曲「組曲より」 - YouTube

       朝鮮のピアノ曲「朝鮮舞曲」 - YouTube

       朝鮮のピアノ曲「祖国への進軍」 - YouTube

                      朝鮮のピアノ曲「舞曲」-You Tube

 

    「アリラン」チョン・グォン編曲

     コリアを代表する民謡の編曲。梁成花さんのCD「アリラン~ピアノでつづる哀愁のコリアン・メロ

    ディー」に収録。楽譜は「コリアン・メロディーによるピアノ名曲集」に収録。「アリラン」について

    は他にも上記の盧裕喜、池辺幸恵(日本)などさまざまな編曲があります。

     チョン・クォン: アリラン Pf.リャン・ソンファ(梁成花):RyangSongfa - YouTube

     

   朝鮮のピアノ曲の演奏やCD制作はこのように、本国を除くと、日本国内でおもに在日朝鮮人の方々によ  

  って現在まで精力的に続けられています。

   おもなCDは、

   ① 2004年 「朝鮮民謡ピアノ名曲選」(p:金貞淑、K.A.C(コリアアーツセンター)、KRC-009)

   ② 2009年 「アリラン~ピアノでつづる哀愁のコリアン・メロディー」

                            (p:梁成花、及川音楽事務所、YZBL-1016)

   ③ 2013年 「ドビュッシーとコリアン・メロディー」(p:梁成花、及川音楽事務所、YZBL-1034)         ④ 年代不詳  「朝鮮民主主義人民共和国のピアニストたちによる 珠玉の名曲シリーズ1 金剛山の 

           木欄」 

       ・2010年前後に朝鮮で録音されたもの。8人のピアニストの演奏、アリランピアノ協会制作。

        このCDに収録されている曲目はチョン・グォンの《アリラン》以外、私には違和感を感じ

        させました。ワンパターンで音楽的生命力がないように思えます。        

   (①から③は国内のミュージックショップから、④は金剛山歌舞団の公演会場で購入しました。)

 

   ユーチューブで「朝鮮、ピアノ」と検索すると、現在の朝鮮のピアノ音楽を多数聴くことが出来ます。

     「北朝鮮『平壌第一音楽学院学生マ・シンアによるピアノ演奏』」は超絶技巧に唖然としました。

           曲目は《将軍様の思い》、《海、豊漁歌》、《人情の世界》、《高くたなびけ我々の党旗》です。

    《ピアノ協奏曲「金正日同志に捧げるカンタータ」》 ← ご参考まで。

       梁成花 - Bing video ←  ここから梁成花さんの演奏をたくさん鑑賞することができます。お薦めです。

   

  楽譜情報

   Amazon.co.jp: アリラン~コリアンメロディーによるピアノ作品集 (ドレミ・クラヴィア・アルバム): 梁 成花, 梁 成花: 本 

  

   個人的には、朝鮮では、かつては素晴らしい作品が多く作られたのに、近年の作品はワンパターン化し

  て質が落ちているような気がします。ユーチューブでこの国から信されたものをみる限り、高度な演奏 

  技術を持ったピアニストがいるにもかかわらず、良い作品が少なくなっているように思われ、残念です。 

  ピアノで最高指導者をたたえることにも限度というものがあるはずで、節度を持ってほしいです。 

<モンゴル Mongol> 

 ホームページ モンゴル音楽史を知るデータベース - モンゴル音楽 @wiki - atwiki(アットウィキ) にこの国の作曲家に関する情報があり、ピアノ音楽についても書いてあります。

      Odgerel Sampilnorov (オドゥゲレル・サンピルノロフ) - ピアニスト | 演奏家データベース Ongaku Musou (dukesoftware.appspot.com) ←  モンゴルの作品の演奏動画。 

                                                  トップページ