East Europe

東ヨーロッパのピアノ曲

<エストニア Estonia>

  エストニアは1917年に独立宣言、1920年に独立を達成したものの1944年にはソ連に併合され、それから40年以上経った1991年に独立するという歴史をたどっています。

 

 エストニアの代表的作曲家といわれながら国外に亡命したトゥビン  Eduard Tubin(1905ー1982)の作品など、この国の、これまで紹介されてきたピアノ曲は、ほとんどが現代音楽に分類されるもので、個人的にはよくわからない作品が多い印象ですが、難解とまでは言い切れません。

  トゥビン  Eduard Tubin 《Prelude No.1》(楽譜つき)

 CD「エストニアのピアノ音楽」があり、ユーチューブでここからすべて聴くことが出来ます(ピアノ:ラウリ・ヴァインマー、FINLANDIA WPCS-10488)。亡命したペルト Arvo Pärt(1935- )を含む7人の作曲家の作品が収録されています。どれもソ連時代の作品です。

 シサスク  Urmas Sisask(1960-   )のピアノ曲集《銀河巡礼》は星座が呼び起こすイメージを自由に羽ばたかせた作品で注目作です。(CD:シサスク:ピアノ曲集<銀河巡礼>、ピアノ:ラウリ・ヴァインマー、  FINLANDIA WPCS-10487)。

  シサスク 銀河巡礼第1集「北半球の星空」~いるか座・おおいぬ座・かみのけ座・おうし座 sisask (14years old) - YouTube

<ラトヴィア Latvia>

 20世紀ラトヴィアを代表する作曲家はヤーゼプス・ヴィートリス  Jazeps Vitols(1863ー1948)、2003年5月31日、久元祐子さんは、コンサートで彼の作品《ラトヴィア民謡による10の変奏曲》を日本で初演したということです。

  Jāzeps Vītols : 10 Lettish Folksongs, Op. 29 1-5 (Video #1/2) - Bing video

     Improvised Fantasia in the German Baroque Style - Bing video

   Peteris Vasks(1946ー   )《Kantate》 

<リトアニア Lithuania>

 チョルリョーニス  Mikolajus Konstantinas Ciurlionis(1875ー1911)の作品があります。彼の音楽は初め、もの悲しいロマンティックなものでしたが、やがて表現主義、セリアリスム(serialism 私もよくわかりません)、新古典主義の影響を受け、少しわかりにくい音楽に変わりました。

(CD:Ciirlionis Piano Works Vol.1&2、piano:Muza Rubackyte、MARCO POLO 8.223549 & 8.223550) 

 動画がいくつかあります。

 【9/22Birthday】チュルリョーニス: 3つの秋の小品 VL 269-271[ナクソス・クラシック・キュレーション #365日 Classic calendar] - Bing video

 2009年12月8日の朝日新聞には、ビタウタス・ランズベルギス(Vytautas Landsbergis)(77歳)が、リトアニア民謡を織り込んだピアノ独唱曲を演奏してまわっているとの記事がありました。

<ベラルーシ Belarus>

 ユーチューブに2つの作品の動画がありました。

 Balys Dvarionas《First Snowflakes》(楽譜つき)、Vytautas Barkauskas《Elegie und fantastische Tokkata》 

   楽譜集「Klavierstuke aus Rubland und Osteuropa」(Edition Peters)の中に、10人の作曲家の作品が収録されていて、この2作品も入っています。

<ウクライナ Ukraine>

レコード「ウクライナの作曲家によるピアノ曲集」(piano:Nikolai Suk、メロディア)に収録されていたのが以下の曲です。ユーチューブで見つけた曲をリンクしました(但しレコードと同じピアニストではありません)。

        ① スコリク                    Myroslav Skorik(1938—2020) 《パルティータ No.5》

                  Myroslav Skorik, Partita No.5より 2.WaltzPartita No,5 全曲(楽譜つき)

  ② ステパネンコ         M.Stepanennko  《映像第一集》

                  M.Stepanennko, Images 

  ③ スコリク                 M.Skorik     《前奏曲 ショスタコービッチの思い出によせて》

                  Cycle «DSCH», dedicated to the memory of Shostakovich p.1 - YouTube

  ④ セチキン        V.Sechkin   《モラビアの夕暮れ》

  ⑤ シルヴェストロフ V.Silvestrov         《ソナタ第一番》

 シルヴェストロフ  Valentin Silvestrov (1937ー   )の作品は、遅めのスピードの内省的な曲が多いようです。《ソナタ第一番》には憂愁を帯びた美しさがあり、印象的でした。ユーチューブで多くの演奏を聴くことが出来ます。2022年3月、シルヴェストロフはロシア軍の侵攻を受けた祖国から離れ、ベルリンに移住しました。

 ウクライナでいまも進行中の悲惨な戦争の一刻も早い終結を願います。

<モルドバ Moldova>

  楽譜集「Klavierstuke aus Rubland und Osteuropa」(Edition Peters)の中に、Georgi Neaga、

   Semjon Lungel、Slata Tkatsch、Wladimir   Rotaru  の作品が収録されてあり、弾いてみましたが良いとは思えま

  せんでした。

      Wladimir Rotaru(1931ー )作《Motive folclorice》

<ポーランド Poland>

 ショパン  Frederic Chopin(1810ー1949)は傑出した民族音楽の作曲家です。疑う人はマズルカを聴いてください。

    「chopin,mazurka,op.63-1」の検索結果 - Yahoo!検索(動画)      ← プロのピアニストでも演奏が難しく、私は演奏会で聴いたことがありません。希望を感じさせるメロディーが広く普及することを願っています。

 ショパン弾きと言われるピアニストは世界にどれほどいるのでしょう。演奏に甲乙をつけるのはたいへん難しく、最後には好みの問題になっていくと思うのですが、中国が生んだ世界的ピアニスト、フー・ツォン(傳聡 1937ー2020)の弾くショパンには独特の魅力があります。彼は中国の古典文化に造詣が深く、アジア人としての美意識をもってショパンを演奏しただけでなく、その独自な解釈を世界に認めさせました。

     フー・ツォンが演奏するショパン:ノクターン(夜想曲):No.19~21、1~18 917と18

   3 Nouvelles Etudes    バラードNo.1234       プレリュード No,1~24   舟歌  

 

 ショパン以後のこの国のピアノ曲としてシマノフスキ  karol Szymanowski(1882ー1937)の作品が挙げられますが、明らかに後期スクリャービンの影響が認められる神秘的で孤高な世界は、大衆の理解を拒んでいるようにも見えます。ユーチューブに動画が多数あり。NAXOSから4巻のCD全集が出ています。

 シマノフスキ《メトープ 1.セイレーンの島》 ←私もよくわからないのですが。

 ルトスワスキ  Witold Lutoslawski(1913ー1994)の「民謡集 Melodie ludowe」(1945年)や「牧歌集 Bukoliki」(1952年)は、民謡の旋律に近代的な和声を施したものです

   ルトスワスキ《牧歌集 Bukoliki  No.1 Allegro  vivace》

   バツェヴィチ Grazyna Bacewicz(1909ー1969)の《Piano Sonata No.2》(楽譜つき)

   ↖ 私は運転する時、藤原亜美さん演奏のCDでよくこの曲を聴いています。適度な緊張でもって安全運転 

   が出来るので。現代音楽にはこのような効用があります。 

<チェコ Czech>

 ドゥセック  ladislav Dussek(1760ー1812)を先駆者とし、スメタナ  Bedrich Smetana(1824ー1904)で開花するチェコ国民音楽があります。

 ヤナーチェク  Leos Janacek(1854ー1928)の《ピアノソナタ 1905年10月1日、街頭にて》は、別名を《労働者ソナタ》といいます。これは1905年10月1日、ブルノ在住のチェコ人が、チェコ語による大学設置を訴えるデモを行い、ドイツ人と衝突、翌日には軍隊も介入して死者が出たことへの怒りから生まれました。単一主題および作曲者特有のリズムを強調したスチャソフカという形式で書かれています。第1楽章:予感、第2楽章:死、第3楽章:葬送行進曲、から成りますが、第3楽章は作曲者によって破棄されて現存しません。いつの日か誰か別の作曲者によって完成されるのでしょうか。音楽と社会のあり方について示唆を与えてくれる名作です

<スロバキア Slovakia>

 私が見つけたのは Jan Cikker(1911ー1989)の次の作品だけです。

    Ján Cikker Tatra Brooks for piano first part played by Jordana Palovičová.wmv - Bing video 

<ハンガリー Hungary>

 リスト   Franz Liszt(1811ー1886)はハンガリー人で、ドイツで亡くなりました。Leslie Howardの演奏によるCD全集があります。全19曲の《ハンガリー狂詩曲》があります。

  リスト作《ハンガリー狂詩曲 第6番》   ←p:アルゲリッチ

        The Cat Concerto (1947) - original titles recreation (Full Cartoon) - Bing video   

         ↖  番外編。ラン・ランが大きな影響を受けたというアニメ。猫がピアノを弾いています。

 ブラームス  Johannes Brahms(1833ー1897)に全21曲から成るハンガリー舞曲集があります。

  ブラームス《ハンガリー舞曲 第5番》

 

 バルトーク  Bela Bartok(1881ー1945)は、盟友コダーイと共に、ハンガリーの農民などに伝わる何千という民謡を録音・採譜するという仕事を長年にわたって続け、これを自分の音楽創造の基礎にすえて、20世紀音楽の革新を成しとげました。

 《二台のピアノと打楽器のためのソナタ》には興奮させられます(ユーチューブに動画多数)。《アレグロ・バルバロ BB63》ではピアノを打楽器のように用いています。《組曲 Op.14》は現代的な乾いた抒情で、飽きさせないのが不思議。一方、《ルーマニア民族舞曲》《3つのチーク地方の民謡》のようなロマンティックな作品も光っています。 

<ルーマニア Romania>

 エネスク  George Enescu(1881ー1955)の後期ロマン派風の作品が魅力的。《即興小曲集》op.18には、鐘の鳴り響く作品があります。もちろんピアノで表現したものです。

 (CD:Enescu:Piano Suites、piano:Aurora Ienei、OLYMPIA OCD414)

        George Enescu - Choral & Carillon nocturne from Suite No. 3 Op. 18 - Morta Grigaliūnaitė - Bing video

<ブルガリア Bulgaria>

 ヴラディゲロフ   Pancho Haralanov Vladigerov(1899ー1978)の作品があります。

   《Piano Pieces Op.15-1 Prelude》 (楽譜つき)

      《Exotic Prelude,Op.17 No.3 "In Spanish Style"》←超絶技巧にびっくり

 

    ネノフ  Dimitar Nenov(1902ー1953)もじっくり聴いてみると面白いです。

   《エチュード  No.1》

         《トッカータ》(1939年)

 ヴラディゲロフもネノフもユーチューブに動画多数。調査中。

<クロアチア Croatia>

 ドラ・ペヤチェビッチ  Dora Pejacevic(1885ー1923)の作品があり、西井葉子さんがCD「ドラ・ペヤチェビッチ:ピアノ作品全集」を出しています。

 Pejačević, Dora: Sonata, Mov.1 "Con fuoco ma non troppo allegro",Op.36 Pf. 西井 葉子 - Bing video

 <セルビア Serbia>

 CD:Serbian Piano Music(piano:Tijana Andrejic、ACOUSENSE ACO-CD11713)があります。右の写真がCDのジャケットですが、ピアニストのティアナ・アンドレイチさん、どうしてこんなこわい顔をしているのでしょう? このCDには少し、よくわからない曲もありましたが、全体的にはとても面白いもので、特にMarko Tajcevic(1900ー1984)の《Balcan Dances》には躍動するリズムがありました。

 Marko Tajčević - Seven Balkan Dances for Piano - Bing video(演奏者不明、楽譜つき)

<アルバニア Albania>

 この国はながらく謎の国と呼ばれていました。1946年から1992年まで、アルバニア労働党の一党独裁による統治が行われ、1967年に無神国家宣言を行って一切の宗教信仰を禁止するなど過激な国造りが進められていたからです。音楽情報も限られていました。しかし近年になって、この時代のアルバニアのピアノ曲をまとめたCDが出ました。

       ①Kenge:Albanian Piano Music、piano:Kirsten Johnson、Guild GMCD7257

   (右:このCDのジャケット

       ②Rapsodi Albanian Piano Music Volume2piano:Kirsten Johnson、Guild GMCD7300

 演奏はアメリカ人のクリステン・ジョンソン、よくぞ集めて紹介してくれたものです。

    そこには躍動感があるトッカータや、ギリシャと共通するもの悲しいメロディーなどがありました。この時代のアルバニアの音楽の特徴として、12音音楽などがないのは当然ですが、ただ予想されるような共産主義を賛美するような作品が入っていないことから、私は演奏者がこれを意図的に取り除けたのではないかと想像しています。これらの作品の楽譜の所在については、ほんの数曲が IMSLP Free Sheet Music にあるだけで、大部分は今のところ不明です。

 これはCD①に収録されているFeim Ibrahimi(1935ー1997)作《トッカータ》(1963年)とA.Komino の

《Vallja e fatosave(Children's Dance)(1983年)、皆さんに聴いてもらいたい作品です。

 A Survey of Albanian Piano Literatures  ←  Kirsten Johnsonによるアルバニアのピアノ音楽の研究書(英文)    

                                                                                                                                                                                                    トップページ